なぜ、フランス語の s や t や d などは発音されないのか?フランス語を学び始めると、単語末尾の子音を発音するもの、しないものが入り乱れて困惑されるかもしれません。
そう言うものとして学んでいくうちに身につけるものが言葉なのかもしれませんが、最初は違いがわからず腑に落ちないと感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事ではフランス語の語末の発音について、発音するケース、発音しないケースについて考察してきます。
フランス人でも発音の地域差に驚き、また戸惑う
パリ周辺と南仏プロヴァンス地方、はたまたアルザス・ロレーヌ地方など地域により、語末の子音を発音したり、しなかったり、母音の発音が微妙に異なっていたりします。その特異性がフランス語の魅力でもあるわけですが。
例えば、
Percil(ペるスィ)パセリ は、パリ周辺地域では語末の「L」を発音しませんが、南仏を始めその他の地方では、(ペるスィル)となり「L」を発音します。
また、
Moins(ムワン)より少なく は、一般的には語尾の「s」を発音しませんが、南仏地域では(ムワンス)となり、「S」を発音します。
あるいは、
Vingt(ヴァン)20 は、パリ周辺を始め一般的に語末の「gt」を発音しませんが、スイス・ベルギー方面のアルザス・ロレーヌ地方では、(ヴァント)となり「T」を発音します。
なので、この地域の人々は、おいしいワイン Vin(ヴァン)の発音と数字の20の発音を混同することがありません。
このように、実際にはフランス人でも新しい単語に出会うと語末の発音に失敗することがあり、バカンスで地方を訪れては、発音の違いに驚くということです。これは日本の地方に多様な方言があるのと似ています。
だから、日本人がフランス語の語末の発音を間違えるのは当然のこととして捉えていてください。
*フランス語の語末の発音しない子音と連音についてはこちらも併せてご覧ください。
フランス語の語末の子音を発音しない理由とは
フランス語の成り立ちについて詳しい史実は分かりませんが、ラテン語からイタリア語、スペイン語、ポストガル語、フランス語などのラテン諸語に別れたというバベルの塔のストーリーは聞いたことがあります。
人類が天に近づこうとしたことで神の怒りを買い、言葉を分断されて塔の建設ができなくなったと。
ともあれ、現代のイタリア語やスペイン語などは、アルファベットをそのまま読んでみると発音できてしまうことがあります。そこにはまだラテン語の母音の名残があり、子音もしっかり発音されているように見えます。
それに対してフランス語は、語末の母音を無くす方向へ進み、子音を発音しないラテン語として現れました。フランス語がラテン語の強い母音を切り捨てていった真相は定かではないですが、フランス語にはそんな歴史的な複雑さや不思議さがありそうです。
都市と田舎と、子音と母音とフランス語
確かに、現代でも都会の人は早口で、言葉の簡略化が得意ですが。祖語となる保守的なラテン語に対して、フランス語は都会的、進歩的な言葉としてもてはやされたのかもしれません。
そうした言葉の変革の流れの中で、母音が切り捨てられて、子音を発音しなくなり、ついにはラテン語から離れていったのではないかと想像されます。
それでも、南仏などの田舎のフランス語には、上記のような末尾の子音を発音するケースが散見され、話し方もゆっくりとして、大袈裟で、鳥(動物?)が鳴くように喋っている印象です。
もしかして、田舎のフランス語にはフランス人の母なる母音への憧憬が今も宿っているかもしれません。フランスの田舎を訪れた際は、そんなノスタルジーに想いを寄せてみてください。
*子音の発音については、こちらの記事も併せてご覧ください。